「茅原というのは、文字どおり萱や葦の生えていた原で、古代には沼沢地であったのだろう。そこには吉祥草が一面に生えていた。(中略)役小角(えんのおづぬ)が生まれた年は、この辺一帯は花ざかりであったという」
(本文より)
「この神社には、有名な玉依姫の命の神像が祀ってあるが、水分というからには、吉野山ではもっとも古い霊場の一つであろう。女人禁制の山に、蔵王権現と並んで、美しい女神が在すのはおもしろいことで、行者にいわせれば、それこそ陰陽合する所に万物は生ず、と説くかも知れない」
(本文より)
「文化は発達しすぎると、柔弱に流れる。人間は自然から遠ざかると、病的になる。多分に野蛮なところはあるけれども、そういう危機からいつも救ったのは、山岳信仰の野生とエネルギーであった」
(本文より)
「すると、にわかに天地が震動して、恐ろしい荒神が大地から湧出した。『大忿怒大勇猛』の蔵王権現で、これこそ彼が長年求めた新しい神であった。それは自然の猛威を秘めた山岳の表徴であるとともに、古代の山の神の生まれ変わった姿でもあった」
(本文より)